We are design company , U・STYLE.
2018年、U・STYLEは新たなフィールドでのデザイン活動に取り組み始めました。
それは「里山」。代表の松浦の生まれ故郷である新潟県上越市安塚の里山です。休耕田を復活させた棚田での米づくりから始めた、里山資源の掘り起こし。土地への理解を深めるためのひとつの取り組みからでも、安塚の里山の輪郭は見えてきます。
生活の基盤となってきた稲作に紐づく人々の営み、無農薬の田んぼに生まれる生態系と循環、地名や地形から見える土地のアイデンティティ、自然と人の関係によって生み出されつながれてきた里山の文脈。さらに時代とともに変化しているその営みや関係性。人口減少や高齢化にともなう里山の荒廃や文化継承の課題に直面しながらも、里山の美しさや営みが持つ価値も同時に見つめています。
「フィールドに身を置いて感じる、見つける」というU・STYLEの手法で里山に向き合いながら、里山を未来につなぐためのヒントを掘り起こしています。
土地にすでにあるものに改めて目を向けると、土着の価値が浮き彫りになってきます。
1年を通じて稲作に関連する営みがある安塚。そこには、田んぼの中での工夫だけでなく、副産物である籾殻や米糠、稲藁まで再資源化し、稲のほとんどを余すところなく活用する先人たちの知恵が存在していました。その営みの周辺に、土地に根付いた信仰や祭、手仕事や食文化、雪を資源化する生活術も生まれ、安塚の里山文化を形成しています。何気ない会話や生活のシーンに隠された“一人の村人”の経験や知恵も含め、すべてが地域の資源であり、独自の価値になると捉えています。
足もとを深くみつめ、生かす。その姿勢で里山に向き合うと、見過ごされてきた小さな植生からでさえも、大きな価値を見出せる気がするのです。そのような視点を持ちながら、里山を見つめ、再編集し、時代にあわせてアップデートして、その文脈をつなぐことを目指しています。
2023年、私たちが安塚の里山で栽培したお米を使った日本酒「MANDOBA」をリリースしました。
安塚にある稲作文化や自然環境をつなぐとともに、地域経済や関係人口をつくりながら土地と人を結びつける、U・STYLEの里山のデザインの試みです。
私たちがこの日本酒をつくる目的は大きく2つあります。
1つ目が、安塚の里山やそこにある営みを知ってもらい、触れてもらうきっかけをつくること。
里山を未来へつなぐためには、まずは人々から存在を知ってもらい、さらに地域に関心を寄せてくれる人を一人でも多くすることが必要だと考えています。この日本酒が、楽しくおいしく安塚の里山の一部に触れてみてもらえるきっかけになったらと思っています。
2つ目が、里山で人と自然がよりよく共生しつづけるための一歩とすること。
安塚にはかつてから稲作を中心とした農文化が生活の中心にありました。農業技術が進歩する中で、現在では農薬や化学肥料を使った慣行栽培と呼ばれる方法による栽培が主流となっています。しかし、そのような従来の栽培方法によってつくられ、慣例的な出荷・販売方法によって流通するお米につけられる価格は、1年間でかける手間に比べて安すぎるのが現状です。人口減少も進む地域でその状況が続けば、世代交代をしながら農業を続けることは期待できず、結果としてさらに田んぼが手放されていきます。(人口減少が進む中、少人数でひとつでも多くの田んぼを維持していくためには、現状の慣行栽培や出荷・販売方法をとることも不可欠な状況です。)
そんな状況に課題を感じつつ、私たちが安塚の棚田で農薬や化学肥料を使わない方法で米づくりを始めてから約5年。土づくりや圃場管理の工夫によって自然の力を引き出しながら栽培したお米を、土地や取り組みのストーリーとともにお客様へダイレクトにお届けすることで、お米の価値をきちんと認めていただける経験をすることができました。
そしてそのお米をお米として売るだけでなく、日本酒などにすることで付加価値もつき、お米の価値をさらに高めることができます。
「難しいよ」と言われながらも農薬や化学肥料を使わずに安塚でおいしいお米をつくり、そこから適正な収益を得られることを自ら実践して形にする。それによって、これから自然に寄り添った農業や生活をしたい人が安塚を選んでくれたり、関わってくれたりすることを目指しています。そして環境共生型の農業や生活が地域に根づくことで、里山環境もさらに良くなると期待しています。
文化的にも経済的にも持続できる環境をつくりながら、地域と人が結びつくきっかけをつくる。そのための一歩が、この日本酒プロジェクトです。
日本酒の名前は「MANDOBA」。このお酒の原材料米である五百万石を栽培している田んぼの通称「万燈場(マンドバ)」に由来します。
万燈場は、安塚・大原集落の山を奥へ、奥へと登っていくと姿を現す、棚田群の一番奥にある天水田(※)です。康元元年(1256年)、峰向こうにある古刹・専敬寺の36世円道和尚が、親鸞聖人の弟子となった事から浄土真宗に改宗した際、それまで使っていた器物や経文を土中に埋蔵したことから「万燈場」と呼ばれるようになったと言われています。
(※ 稲作に必要な水を雪解け水や雨水など天水に依存している水田)
MANDOBAは、飲む人が安塚の里山の季節や営みを少しでも感じながら楽しんでほしいと思っています。そのため、同じ仕込みながら加熱処理や熟成方法を変えることで味わいの違いを生み出した5種類の日本酒をつくり、それぞれに安塚の里山の季節や営みをコンセプトとするタイトルをつけ、その時季にあわせてリリースしています。
[里山の季節と営み]
季節:春
春の気配とともに雪が緩み、田植えに向けた準備が始まる頃。種もみを取り出し、選種などを経て芽出しをします。
[酒の特徴]
春の里山の生命力を表現
・さわやかな微発泡
・直詰/生酒
[里山の季節と営み]
季節:初夏
田植えを終えると行われる「田休みの節句」。笹餅や朴の葉赤飯が神棚や仏壇に供えられ、酒を酌み交わし英気を養います。
[酒の特徴]
フレッシュな山の恵みを表現
・生酒の風合を残したフレッシュ感
・生貯蔵/1度火入
[里山の営み]
季節:夏
8月上旬から下旬にかけて茎の中からさやを割って薄緑色の穂が出てきます。
早朝、露をたたえた美しい穂を眺めながら、その年の作柄を左右するこの時期の好天を、天に向かって祈ります。
[酒の特徴]
若い穂が伸びやかに育つ頃の爽やかな夏空を表現
・にごり
・2度火入
[里山の営み]
季節:秋
山の粘土質の田んぼの稲刈りは、機械化が進んだ今でも簡単ではありません。昔は、稲刈り、稲背負い、はさかけ、脱穀と、稲を米にするまでの過程すべてが手作業で行われていました。昔も今も、刈上はその1年が報われる、何にも変えがたい喜びです。
[酒の特徴]
・イメージ:一年で最も米に恵まれる時期、米の香りをふくよかに愉しむ
・常温や燗でもおいしいふくよかさ
・2度火入
[里山の営み]
季節:冬
田んぼ仕事がひと段落する晩秋、冬を迎える準備に入ります。
雪国ならではの「雪室」を活用した貯蔵もそのひとつ。
「MANDOBA – 越冬 -」も安塚にある雪室で数ヶ月熟成させ、味わいを深めます。
[酒の特徴]
もっとも上質なところを雪室で熟成させた特別な1杯
・雪室熟成
・ベストな中取り
・1度火入
MANDOBAは、米づくりから酒造りまで、できる限り自然の作用の中でつくることを大切にしました。
里山に蓄えられる水のみが沁みだす天水田で、農薬や化学肥料に頼らず土地の力を引き出しながら自然の営みに沿ってつくったお米で仕込む日本酒。手間をかけて、大切にしてきたからこそ、お酒にするときにもできる限り自然の作用によってつくりたいと願っていました。
そこでMANDOBAシリーズでは、現代の日本酒醸造では通常添加する乳酸や酵母を添加せず、自然の作用によって醸造する「生酛造り」を選択。MANDOBAの醸造を担当してくれた酒蔵・竹田酒造店にとっても初めての挑戦でした。
日本酒MANDOBAは、デザイン会社「U・STYLE」、酒蔵「竹田酒造店」、酒屋「わたご酒店」による共創プロジェクトです。U・STYLEが掲げた「日本酒で里山を未来につなぐ」という思いに共感してくれた2社とともに、構想段階から専門性と発想を掛け合わせながら、日本酒プロジェクトを一緒につくっていきました。
竹田酒造店10代目 竹田春毅さん
わたご酒店 寺田和広さん
プロジェクトチームで万燈場視察へ
私たちにとって日本酒は、里山を未来につなぐひとつの手段です。これからも安塚の里山を舞台にした取り組みによって、関係人口や地域経済の創出、海外への発信と展開、里山やそこにある文化の継承や発展へとつなげていけたらと考えています。
ぜひ多様な関わり方で、私たちの取り組みに関わっていただけたらと思います。
日本酒MANDOBAプロジェクトをリリースするにあたり、多くの方から認知し関わっていただくためにクラウドファンディングに挑戦しました。
結果として、合計153名の方より1,544,000円のご支援をいただき、多くの方に背中を押していただきながらプロジェクトをスタートさせることができました。本当にありがとうございました。
プロジェクトページ
https://www.makuake.com/project/u-style-niigata/
日本酒 MANDOBA は わたご酒店 、竹田酒造店 ほか、オンラインストアでもご購入いただけます。
MANDOBA オンラインストア
https://mandoba.official.ec
新潟県上越市の中山間地にある安塚は、過疎と高齢化が進む一方、魅力的な棚田の風景や美しい自然に囲まれた豊かな地域です。この地域の里山には、多様な樹木や植物が自生しています。
U・STYLEでは2018年に、安塚の里山をフィールドとするローカルブランド「里山ボタニカル」を立ち上げました。里山の植生や自然環境、先人より受け継いできた棚田の風景を深く理解し、植物がもつ美しさや土地ならではのストーリーを伝えるプロジェクトです。
すでに存在している資源や価値を、商品や体験に昇華し届けることで里山と人々を結び、里山に自然と文化と経済の循環をつくる中山間地域のデザインに取り組んでいます。
麹チーズケーキは、麹の優しい甘さと、しっとりとした食感をお楽しめるチーズケーキです。安塚の棚田で、栽培期間中無農薬で育てた酒米を主原料に、干し柿のラム酒漬け、ふきのグラッセ、栗の渋皮煮、イチジクのコンポートなど、里山の四季の素材に向き合いながら手を加え、自然の恵みを贅沢にトッピング。ひとつひとつ手作りで、丁寧に焼き上げています。
里山の植生たちを丁寧にみつめながら、私たちの視点で切り取ってつくりだした、オイルハーバリウムです。ハーバリウムの元々の語源は、英語の“herbarium”。「植物標本」という意味をもちます。「人の手で加えられた華やかさよりも、里山にいきる植物が本来もつ生命力と、儚くも芯をもつ美しさをとどけたい。」そんな想いから、余計な着色や装飾はせず、植物そのものの造形や魅力をより引き立てられるつくり方を大切にしています。
安塚に自生している野草を一枚ずつ手摘みで収穫し、手づくりした野草茶です。気持ちのいい野草のフレーバーが口の中いっぱいに広がり、里山の植物の爽やかな味わいが楽しめます。